みんなのお茶講座-番外編「建築とお茶・お米」





みんなのお茶講座-番外編「建築とお茶、お米」

講師: 富田 崇(トミタ建築設計スタジオ)

日時: 2019 年12 月1 日(日)
1 回目 10:30- 12:30 (10:15 開場)
2 回目 14:30- 16:30 (14:15 開場)

定員: 各回6 名

会費: 3,000 円( 薬草豆乳チャイ/入館料含む)

会場: 抱石庵 久松真一記念館(岐阜市長良高見バス停すぐ/現地集合、解散)

主催: GALLERY CAPTION


哲学者 西田幾多郎の高弟として知られ、京都大学心茶会を設立するなど、茶人しても知られる岐阜市出身の哲学・宗教学者久松真一(1889-1980) の自邸が、岐阜市内に記念館として公開されています。今回は日々の丁寧なくらしのなかから、住宅建築の本質を見出そうとする建築家 富田崇さんとともに、久松真一と父大野定吉の「思想と建築」とが融合した「抱石庵 久松真一記念館」を訪ねます。建築家の視点から記念館を見学、ご案内いただいた後、富田さんが大切にしているお茶と建築、また一昨年からはじめられた稲作とのつながりを、揖斐川町旧春日村(岐阜) の薬草と湧水を用いた豆乳チャイを味わいながら、お聞きします。


富田 崇|建築家1972 年名古屋生まれ。2012 年にトミタ建築設計スタジオを設立し、住宅や店舗設計を数多く手がける。現在、名古屋モード学園、名古屋芸術大学非常勤講師。お茶はもとより、古墳としばわんこをこよなく愛する。
https://tomita-arch.jp/


抱石庵 久松真一記念館岐阜市長良福光228‐2近代日本の代表的な思想家、あるいは禅者、大茶人ともいわれる久松真一の遺した郷土岐阜の抱石庵(書院と茶室)を久松真一記念館として一般に公開しております。(公式HPより)
http://www.nagaragawagarou.com/hisamatsushinichikinenkan.html








「抱石庵 久松真一記念館」で開催いたしました『みんなのお茶講座-番外編”建築とお茶・お米”』にご参加くださいました皆さま、ありがとうございました。いよいよ師走。冬の寒さを心配しておりましたが、お天気に恵まれ、記念館の障子越しに差し込む陽射しがあたたかい、おだやかな1日となりました。

講師の富田崇さん(建築家/トミタ建築設計スタジオ)には、これまでも「みんなのお茶講座」として、セカンド・スペース「front(2017年閉店)やギャラリーキャプションでお茶や建築にまつわる講座をお願いしてきましたが、今回は特別に「抱石庵 久松真一記念館」での開催ということで『番外編』と添えました。



入口:味わい深い煤をすりこませた「煤壁」


茶室




旧道の脇にしずかに佇むこの記念館は、ここで晩年を過ごした久松真一の美意識をともなった暮らしを垣間見るような、自然な趣きがあります。ただ訪れるだけでも、その設えや調度品、さりげなく飾られた名品の数々に、時が経つのを忘れるほどですが、今回は富田さんのお話と、自らご用意くださる薬草豆乳チャイをいただきながら、そこでひとときを過ごすことを通じて、皆さんと記念館に親しむことが出来ればと、企画しました。




それにしても、なぜ建築家が、お茶、で、お米、なのか。
一見するとつながりのなさそうなテーマです。

そもそもの発端は、富田さんが非常勤講師をつとめる学校で、ある留学生から卒業のお礼にと贈られたお茶を、どうしたらおいしく淹れられるのか調べてみたことがきっかけでした。せっかくいただいたものだから、丁寧に受けとりたい、そんな思いが「相手を想う」ことからはじめる、富田さんの建築設計のスタンスへとつながっていきます。実際にお茶はコミュニケーション・ツールとしてとても有効で、クライアントの前でお茶を淹れることで場が和み、打合せがスムーズに進むことに気がついた富田さんは、お茶が取り持つ力と、お茶そのものの魅力に惹きつけられ、緑茶、青茶、白茶、紅茶、マサラチャイなどなど幅広くお茶を研究しながら、事務所や学校でお茶を淹れるようになります。それがだんだんと評判となり、あちらこちらからお茶を淹れてほしい、講座を開いてほしいという依頼が舞い込むようになっていきました。









そんな時、お茶を通じて、揖斐(いび/岐阜県揖斐郡揖斐川町)で不耕起栽培による米づくりをしているグループと出会います。耕さず、化学肥料や農薬を使わず、なるべく余計な手を掛けないように、皆で協力しながらお米を育てることをモットーとする「一歩の会」です。そこで米づくりに参加してみないかと声をかけられたものの、住まいのある名古屋から揖斐までは1時間半・・・自然に携わることへの責任の大きさに躊躇しながらも、チャレンジすることを決意。建築家・富田さんの経歴に「米づくり」が加わることとなりました。しかしながら2年目の今年は、作付面積を2倍にして頑張ったものの、収穫量は前年から横這いという苦い結果に終わります。もの言わぬ自然相手との、1年かけなければ結果が見えない稲作を通じての学び。そして、そこで暮らす人々の生活に触れることが、都会で育ち暮らす自らの生活をかえりみる、きっかけになっていると言います。

ある日、お世話になっている90を過ぎたおばあさんに「煮物をよく作っている」と話すと、かえってきたのは「それはいま採れる野菜じゃないね」という言葉。その季節に採れる、食べきれないほどの野菜を分けてくれるおばあさんに対して、旬ではない野菜にかかるコストを払っている生活の不自然さに気づかされます。自然であることとは、どういうことなのか・・・田舎で自給自足の生活も、ひとつの理想であるかもしれません。しかし富田さんは、名古屋での生活と、揖斐での米づくりの両方の時間軸があってこそ、考えられることがあるのではないかと、名古屋から揖斐へ通いながら米づくりをつづける選択をしています。






自分にとって、その人にとって自然であること。
その土地や環境に対して自然であること。
建築家が考える設計、間取りに生活を合わせるのではなく、住む人がそこでどんな生活を送りたいのかを空間に反映させる。その立地にあわせた設計をする。それが自然なのではないかと富田さんは考えます。そして月日とともに、家族構成や、生活のスタイルも変わっていきます。それを踏まえて、今ここから、この先の生活を見通した設計をしたい。そのためには相手を知り、想い、想像することが大切なのです。そしてそのことは、心をこめてお茶を淹れること、稲の生育のさまたげにならないよう、いろいろな条件を鑑みながら、手をかけていくことに通じているのです。

そんなお話をお聞きしながら、今年採れた新米、お米を炒って作った玄米茶、揖斐から少し山へ入ったところにある旧春日村の薬草と湧き水で淹れた薬草豆乳チャイをいただきました。前日に春日で汲んできたという湧き水は、とてもまろやかで、すっと身体にしみいります。薬草は季節柄、冷えや風邪に効能のある4種類を用意してくださいました。それぞれに特徴的で香り高く、自然の力強さを感じさせます。薬草豆乳チャイは、なんともあたたかでほっとする味。身体が欲しているのか、皆さんあっという間に飲み干してしまいました。



春日の薬草のひとつ「イブキジャコウソウ」



クロモジ】
樹皮にある黒い斑点を文字に見立て、クロモジ(黒文字)と付けられた
薬効:発汗、利尿、咳、風邪

【ナギナタコウジュ】
香薷(こうじゅ)とは香りが強く薬草となるもの全般を指し、花穂の形態がなぎなたに似ていることからこの名が付いた。
薬効:解熱、発汗、風邪、利尿、血行

イブキジャコウソウ】
伊吹山に多産して、よい香りがあるのが名の由来。
薬効:発汗、利尿、咳、風邪

ヨモギ】
「何にでもよく効く」といわれ、日本だけでなく世界各地で薬草として使われてきた。
薬効:肝機能、腎機能、利尿、整腸、下痢、咳、風邪、美肌






建築とお茶とお米。一見ばらばらに思えるものを、つなぐ力。

茶人としても知られる久松真一は著書「茶道の哲学」のなかで、生活のなかのひとつに茶道があるのではなく、茶道そのものがこの世のすべてなのだと記しています。

「抱石庵 久松真一記念館」のしなやかな在り様が、ここでの出来事を、おおらかに受けとめてくれている、そんな気がする1日となりました。

最後になりましたが、講師の富田崇さん、また記念館での開催にご協力いただきました館長の久松定昭さんに、お礼申し上げます。




館長 久松さんお手製の看板